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2010/09/24 22:11 に ついついペコ が投稿   [ 2010/09/25 8:34 に更新しました ]
 

―丘の桜の木の下で待っています―とだけ書かれた手紙が。

 涼夜がその桜の木の元に向かったのは、夜更けになってからだった。もう居ないかもしれないと半ば諦めつつ、それでも居て欲しいと願う気持ちは、涼夜の足を走らせた。

 月に照らされた桜を見上げている、熒の姿を見た涼夜の足は必然的に止まった。会いたかった大切な人がすぐそこに居るのに、出したい一歩が出なかった。呼びたい名前がそこにあるのに、出したい声が出なかった。風が吹く。舞う花弁。長い髪を押さえる熒の姿。その一つ一つが、時代の中で揺れ動く涼夜の心ごと時を止めていたのだ。

 不意に涼夜の方に振り向く熒。氷が溶け出すように、涼夜の足は動き出した。

 

 

 泣きたくなるほどの切なさ、無力感、そしてどこか温かく優しい気持ちが入り交ざった中で、俺は目を覚ました。なにか大切なことの気がするのだが、今回も思い出せない。それでも「どうせ夢なんだ」と拭い切れない気持ちとともに、何かから逃げるようにカメラを手に取り家を出た。

その日、俺は何かに引き寄せられるように、丘に登った。

「ふっー。結構、距離あったな…」

 遠くからは、すぐそこに見えるのに、実際に登ってみると思っていたよりも遠く、俺の運動不足の脚には、少し堪えるものがあった。しかし、体の疲労感とは反比例して心は、軽くなったような気がした。

「ん?花弁…桜?…まさかな…」

 俺の掌に、一枚の桜の花弁が舞い落ちた。「もうすぐ7月が終わるというこの季節に桜が咲くはずがない」と解っていても、俺は桜の木を探した。

 

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