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2010/08/30 10:26 に ついついペコ が投稿   [ 2010/08/31 22:18 に更新しました ]
 

赤紙が届いた次の日には、ご近所の人達が来て口々にこう言った。

「この度は誠におめでとう御座います」と。

「りょうや兄ちゃん…」

 まだ幼い声が涼夜を呼んだ。その声のする方に振り返る。

「おぉ。かず、来てくれたのか。ありがとうな」

 涼夜はかずの頭を撫でながら言った。すると、かずの瞳はみるみる涙でいっぱいになっていく。

「どうしたかず。誰かにいじめられたのか?」

涼夜の問いに、かずは目一杯かぶりを振った。

「じゃぁどうしたんだ。かず……言ってごらん」

 下を向いている、かずの顔を涼夜が覗き込むと、かずの顔はすでに涙でグシャグシャになっていた。必死になって服の袖で涙を拭くが、涙はとめどなく流れ続けていた。

「りょう…やっ…兄ちゃん。ひっく…もう…戻っ…て…ひっく…こないの」

 かずは嗚咽を漏らしながらも、涙を拭きながらも、涼夜の目を見て言った。その真剣な眼差しは、涼夜の言葉を詰まらせた。もう答えるべき言葉は決まっていたはずなのに…。

「かず!おめでたいことなんだから、泣くんじゃないの」

「……ごめんなさい」

かずの母親が、周りの目を気にしている姿は、涼夜の心を痛ませた。かずの問いに答えることもできず。その場でかばうことも、取り繕うこともできない。それは無力の他、何ものでもなかったからだ。せめて、戦地に向かうまで笑顔で居続けようと、涼夜はその時心の中で強く誓いを立てた。

その日涼夜は、恋人の熒(あかり)の姿を幾度となく探したが、見つけることはできなかった。その代わり手紙が手元に届いた。
 
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