【少年の心:青木弘貴】2011.1.11 58歳、男性、長野県塩尻市 何ヶ月振りの里帰りだろう。「カンタ、2才になったんだよ。」孫のカンタは随分成長し、行動と言葉の達者さに驚かされる。 長野のアパート暮らしでは、妊娠中のママの自由も利かず、ずっと室内で過ごしていたのだろう。 夏場に我が家の庭で過ごした時の遊びを、カンタはすぐに想いだしたようだ。 子どもの知恵は、60近い爺の想像を遥かに超えた速度で発達している。 カンタはクリスマスにパパとママからプレゼントされた品物を、小さな赤いリュックサックに詰めて、大事そうに抱えていた。 それは、ウォルトディズニーの映画「トイ・ストーリー3」のDVDだった。 リオの出産から元日まで、カンタは長野のご実家で面倒を見てもらっていたが、そこにはDVDの再生機器がなく、未だDVDの封も解かれていなかった。「じぃじ!トイ・ストーリーを見せてよう。」カンタはDVDを私に差し出し、そう言った。 テレビは丁度、大学駅伝の往路5区の中継が映し出されていたのだが…。 カンタにせがまれるとどうも爺は弱い。まあ、往路2区の東海大2年村沢明伸選手の17人抜きは見させてもらったから、カンタにテレビ画面を譲ってやることにするか。 カンタが生まれるよりずっと前、爺は若い頃に漫画家を目指していたことがあった。 あの頃は、少年漫画を手当たり次第に読み漁っていた。 読んだ漫画はどれもこれも「勧善懲悪」、最後は主人公が悪玉を倒すという類の筋立てだった。 爺は何時から漫画を読まなくなったのだろう。 何故「勧善懲悪」は絵空事だと思うようになったのだろう。 目に見える現実だけが真実と思うようになったのは何時からだろう。 人と話せるライオンや空を自由に飛ぶロボットを、どうして空想と思うようになったのだろう。 カンタを爺の膝に乗せ、2人で一緒に「トイ・ストーリー3」を見ているうちに、玩具が主人公のこの物語に、カンタよりも爺の方がすっかりのめり込んでいた。 今カンタが大切にしている沢山の玩具も、きっとカンタと一緒に遊んだことを忘れないね…。思わずカンタにそんなことを呟いていた。 カンタ、玩具をプレゼントしてくれたカンタの周りの大勢の人たちのこと、忘れずにずっと大切にしてくれよ。 カンタが成長して着られなくなった小さな服や靴でさえ、パパもママも爺も婆も、とても愛おしいのだ。「トイ・ストーリー3」をカンタと見ながら、爺は何だか遠い昔の少年の頃の心を甦らせていた。 「カンタ、トイ・ストーリー1と2のDVDも、爺が買ってやるぞ。」そして、爺はカンタと一緒に「トイ・ストーリー」を見続けていくよ。 爺自身が「少年の心」を忘れてしまわないために…。 |